先週、うちの小さな庭でイモムシを発見した。毒々しい蛍光グリーンの肉体にツノのようなものが生えている。10cmを超える大きさ。その存在感に一瞬たじろいだ。しばらく監視していると、その大きなイモムシの近くに、また別の大きなイモムシを見つけた。やはり仲間がいた。他にもまだいるかもと思い、さらに観察していると合計6匹のイモムシがいた。手入れもせず放置していた場所にこんなものが住み着いていたのかと、ゾッとした。何者なのかスマホで調べてみたら、おそらくススメガ科の蛾の幼虫。毒もなさそうだし、子どもが触る場所でもないので一旦そのまま放置した。家の中からもその場所は見ることができるので、たまに目をやるとイモムシたちがピンポイントで蔓の植物の葉を食べていた。イモムシって葉っぱならなんでも食べるのかと思っていたけど、好き嫌いがあるんだなと思うと少し愛着が湧いた。
数日が経ち、イモムシの数は減ってきけど相変わらず元気に葉っぱを食べ続けている子たちがいた。彼らの食欲はかなり旺盛だ。葉っぱが残りわずかになっている。茎だけになった植物って不気味な感じだ。地面にはダンゴムシくらいの大きさのフンがいくつも転がっていた。ひたすら黙々と葉っぱを食べ続けるイモムシがだんだん可愛く思えてきた。
ふと、先日亡くなったエリック・カールの『はらぺこあおむし』が頭に浮かんだ。『はらぺこあおむし』は僕が子どもの頃にもあったはずだが、全く記憶にない。僕は子ども時代の記憶があまりない。何も考えないでぼーっと生きていたんだと思う。自分が親になって存在を認識した『はらぺこあおむし』は、子ども用のあらゆるグッツを網羅していた。我が家にも、絵本やおもちゃがいくつかある。長男が赤ちゃんの頃は、はらぺこあおむしのソフトブックが大のお気に入りで、どこへ行くにも持っていっていた。ページの中にカシャカシャと鳴るビニールが入っていて、それを握って楽しんでいた。歯固めの部分を甘噛みし続けるから、ヨダレで本がびしょびしょになっていた。でも洗える素材だから全然問題ないんだけど。仕事でロンドンに行った時のお土産も、はらぺこあおむしのTouch and Feel PLAYBOOKという仕掛け絵本を買って帰った。ロンドンの本屋さんで『はらぺこあおむし』を見つけた時は、妙な親近感が湧いて、思いかけず買ってしまった。帰国してすぐ息子に渡したら、はらぺこあおむしが蛹になっているページの仕掛け部分をあっけなく破られてしまった。でも、あおむしが蝶になる最後のページはすごく気に入ってくれた。僕もあのページが好きだ。豊富に使われた色はけっして鮮やかではないけど、心にすっと入ってくる落ち着いた色合いでずっと眺めていたくなる。水彩絵具の滲んだ感じや色が混ざったディテールは、いきものの儚さをイメージさせてくれる。ざらざらの加工が触っていても楽しいし、キラキラしたラメが蝶ってよく見たら美しいんだなと想像させてくれる。いきものを観察する悦びをあの本は教えてくれた。エリック・カールの観察眼と表現力は僕が言うまでもなく素晴らしい。世界中の子どもたちがそれを証明している。
今日、イモムシが全ていなくなっていた。もう成虫になって飛び立ってしまったのか。それとも違う餌場を見つけてまた葉っぱを食べ続けているのか。彼らの成長した姿をじっくり観察してみたいけど、もしかしたら怖くて見れないかも。蛾って気持ち悪くてあまり好きではないんだよね。