Nobuto Osakabe Photographer

Essay

vol.30 ひとり飯

一人暮らしになって1週間が経った。帰宅しても家に電気がついていないのはいつぶりだろうか。玄関のドアをあけても僕の靴しかない。奥からは誰の声も聞こえてこない。いつも賑やかな我が家がシーンと静まり返っているのはとても不思議な感覚だ。置きっぱなしになった息…

vol.29 真似

昔から誰かの真似するということをあまりポジティブに思っていないところがある。ものまねのテレビ番組もあまり好きではなかったし、真似=偽物って勝手に思ってしまう傾向にあるのかもしれない。 写真を撮りだしてからは特にその思いが強くなった気がする。真似をす…

vol.28 8月1日

8月1日は、僕にとって特別な日だ。 2014年の8月1日、僕は独立してフリーランスになった。28歳の夏だった。独立する前にそんなにたくさん仕事をしていたわけではないではなかったので、すぐに仕事が舞い込むことはなかった。暇な日も多かったけど、なぜか自分を信じ…

vol.27 枇杷

先日、雨の中を車で走っていると『ビワ 500円』という看板が見えた。本当にさりげない看板で、大半の人は気付かないと思う。でも僕はその哀愁漂う看板を目にして、口の中が枇杷の味になってしまった。看板の奥には、個人が営んでいるであろうと思われる果樹園と直売所が…

vol.26 奥之院

高野山の「奥之院」についたのは、朝の8時前だった。 目覚めたときには明るかった空も、急に雲が増え、一段と暗くなった。この日の奥之院には人っ子一人いない。普段はどれくらいの人がいるのだろうか。誰も人がいないと少し心細く思う。この世の人間が僕一人だけにな…